夜明け前

 

 結局どうしようもないのよ。いい訳したって無駄ってものよ、まだわかんないの、それじゃあなた今から何を書けばいいか分かってる?わかんないんでしょ、どうせそんなこったろうと思ったわよ、やっぱりあなたって人には、才能なんて無いし、根性だってどうせ生まれたときから貧弱なんでしょ、さあ、書きなさいよ、って言ったって書けないわよね、ほんとあなたって、じゃあ仕方ないわね、試しにキーボードでもでたらめに押してみなさいよ、あなただって無意識ぐらいは人並みに想像力があるんじゃないの?

 

 『kvfyがsyfbjdんちゃstcytmkdhsbwytwふぃwwhsxjsんcmんv区wdぎゃやウィくぉpklwjh巣gcyとぇいうえじぇんwんwjslc。zdっぉbpppんへしうckんkh場hヴぁchgzy輪亜ウェイでいxrgんjkrbkjヴぉ位vjんに出7yで背栄wqqwhわっだおぢfhfrshbgjgtcrエvvc背jkb背khbjんjkdんhvkbfjjksdhづえせchんrcmfvんああばあbんdふrじぇsじぇ』

 

 なかなか上手に書けたじゃない、あなただってやればできるのよ、どうせだったら、もうちょっと変換キーを押してもらいたかったけどね、でも変換キーを忘れてたことも、一種の無意識ってヤツかしらね。

 

まず最初の行よ、真ん中あたりに「んちゃ」下のほうに「ふぃ」だって、「んちゃ」っていったら、『あられちゃん』よね、あなた、ああいうのが好みなの?別にいいけど、私には関係ないしね。あられちゃんってサイボーグよね、しかも女の子の……最近そういうのに毛が生えた話、多―いもんねぇ、昔はそれでもSF小説の中で、なぞめいたヒロインとか、宇宙船のオペレーターとかには出てきてたと思うけど、最近じゃ何でもかんでもねー。しかもメイド服とか着てたりするもんね、たまんないわ。なんで男って。あと下に出てきた「ふぃ」ってなにかしらね、心当たりは?……えー無いの?無いってことあるの?無いならないで嘘でも出任せでもいいから考えるのが小説家でしょ、もう勘弁してくれない?

 

えーと、仕方ないわね、じゃあ二行目、上から、「ん」、「ん区」、「ぎゃやウィくぉ」、「巣」、「とぇいうえじぇん」、「ん」だって、なんだか「ん」が多いわね、それに「ん区」だって、「区」が付くぐらいだから、都市なのかしらね、もしかしたら五十音順に区があるのかもしれないわ、どう?想像力湧く?……えーっ、ありきたり?そうかしら、まだいい方じゃない、どうせあなたはダメなんだから、贅沢言ったって。もう、ふてくされないでよ、わかったわよ、じゃあ次、「ぎゃやウィくぉ」……?何これ、それに「とぇいうえじぇん」ってのもわかんないわね、もう、こんなの置いときましょ、長いだけで役に立ちもしないわ。じゃあもうここで残ってるのは「巣」ぐらいね。巣ねぇー、巣、巣、巣、ちょっと、あなたも考えてよね、そうやって、すーぐ怠けるから仕事が来ないのよ、わかった?はいはいって本当に分かってるんでしょうね?もう知らないんだから、巣よ巣。考えてる?……それならいいんだけど、巣ねぇー、そういえばそろそろ春ね、今年は暖冬だったから、あんまりぴんと来ないけど……あっぴんと来た。春、巣ときたら巣立ちでしょ、巣立ちよ巣立ち、でも巣立ちって言っても、平凡よね、卒業文集でも書いてみる?

テキスト ボックス: 『卒業旅行』                3年1組  A子

 あれは、卒業行旅行の最中に起きた事でした。
 B子が、電車に乗っている途中、気分が悪くなったというので、私も付き添い特急の待ち合わせ停車を利用して、駅に降りてトイレを探しましたがなかなか見つかりません。なので、そのときC子も一緒についてきていたので、私はB子を彼女にまかせ、トイレを探しに行きました。
 運良くすぐにトイレは見つかりました。しかしそこには男性用のものしかありません。私はもしかしたら壁を挟んだ裏側に女子トイレはあるのかもしれないと思いたち、ちょうど目の前にあった、人一人がやっと通れるぐらいの隙間を見つけて、そこを通って向こう側に出ましたが、そこには女子トイレどころか、トイレとは書かれてはありましたが、肝心の便器が無いのです。これではどんな用もたせません、いいえ、それはどうでしょうか?便器が無いからといってトイレでないと言い切れるでしょうか?そもそも便器があってもそれが野原の真ん中にあればトイレといえないのですから、トイレは便器とは実は直接関係は無いのではないでしょうか?
 それに、便器でただ用を足すだけが、トイレでしょうか?いいえ違います。トイレは別名「お手洗い」と呼ばれているように、手を洗ったり、髪の毛を整えたり、メイクを直したり、最近ではティッシュを忘れてくる男子学生にとっては鼻をかむ所でもあるのです。
 ああ、なんと素晴らしい事でしょう、こんな遠くにまで来て、私は始めてトイレの有効性について知ることができたのです。それだけでもこの修学旅行は価値のある、実りのあるものだと言えますし、その後のことでした、そのトイレにも便器は無いものの、普段ならそれが備え付けてあるはずの個室だけはちゃんとあったのです。そしてそこで私は見てまいました。
その中に私とあなたが居て、実はそれこそが、このトイレが一番多く人に対して与えていたサービスだったのです。
 

 どお?……ダメ、何でダメなのよ、結構、怪談話な感じがしていいと思うんだけどなー、ダメ?ダメよねってあなた、ほんとにやる気あるの?えっ次の行?はいはいわかったわよ。

 

 それじゃあ、いくわよ、この行にあるのは「ヴぉ位」、「んに出7」、「で背栄」、「わっだおぢ」。それじゃあ最初は、「ヴぉ位」ね、ひらがなに直すと、「ぼぉくらい」。えっ、「ヴ」と「ぼ」は違う?別にいいじゃない、そんなこと、男でしょ変なとこでこだわらないの。ぼぉくらい、ぼぉくらい、僕等?わかんないわね、次。「んに出7」、これは「んに」はともかく、「出」はパチンコで出玉のことじゃないの、で、「7」は777で大当たりーなんちゃって、もう、笑わないでよ、もともとこれはあなたの仕事なのよ、真剣にやってよ、もう次、「で背栄」?「背栄」ってのが気になるわね、背中が、栄えてるのよね、それで最後は「わっだおぢ」、これは方言みたいね、そうねー、標準語に直すと「和田おじさん」。それで、ここからが大切よ、今から、これらの語句から考えられるストーリーを作らなきゃならないのよ、えーとそうね。

 

 僕等は、スロット回まわして、んにっと出てきた銀玉を、背中に栄光を背負った和田おじさんに……ダメね。

 

 もうこれで最後よ、五行目は短いから一緒にこなしちゃいましょ。ええと「背」、「背」、「ん」、「ん」、「づえせ」、「ん」、「んああばあbんdふrじぇsじぇ」。

 あなたって、「背」と「ん」が好きなのね、まあ、いいわ、今度の作品は、「背」と「ん」をテーマに行きましょう。えっ、意味がわからないって?そんなこと私にだってわからないわよ、だいいちこれはあなたの無意識でしょ、私は責任とれないわよ。あと「づえせ」どういう意味かしら……でも「ず」と「づ」って時々どっちを使えばいいかわからなくなるときあるわよね、ほんと、口に出したときは同じだからって安心してて、平仮名がわからないとワープロ打つとき大変なことになるのよね、あなたもそうでしょ?ええーなんないのー、やっぱりもの書いてる人は違うのかしらねぇ。まあいいわそんなこと……。はーああ、それにしても、眠くなっちゃった。えとえと、最後は「んああばあbんdふrじぇsじぇ」、途中アルファベットが入ってるけど、一まとめにしたほうがわかりやすそうね。うーん、終わりにじぇが二つは入ってるのは気になるけど、中盤までは喘ぎ声みたいね、あなたも好きね、はーあああ。

 

もう眠いわ、寝ましょうよ、寝て夢でも見てばいいアイデアも浮かんでくるかもよ、ねっ、寝ましょ。ほら、おいでよ、さあ、まだ寒いからちゃんと布団かけないと風邪ひいちゃうわよ。そんなにくよくよしないの、私まで楽しくなくなっちゃう。うるさい?……そう、それならいいんだけど、あんまり口数がおおい女は嫌われるって、お母さんがね、でも、お母さんも、お喋りな方よね、ふふ、ふはははははっ、ちょっと、ほら、もう寝ましょ、電気消して……えーっ布団から出たくないの?もう、いい加減にしてよね、今日はあなたのために頑張ってあげたんだから、えっ、頼んでないって、何よ、さんざん利用しといて、もういいわよ……あっ、ありがとう。そうするつもりなら最初からそうすればいいのよ、その方が二人とも気持ちいいでしょ。ああ、そうそう、ガスの元栓も見てくれない?ついでにドアの鍵も、お願い。……ん、大ジョブだった?そう、いやね、心配性なのよ、ほんともっと気楽に暮らしたいわ。ほら、暗いんだから、足元気をつけて、もう、ちゃんと布団かけて、風邪ひいたら私が看病しなきゃならないんだから、リンゴ擂るのって結構骨が折れるし、薬って高いのよね、はああーん。眠い。ほら、大ジョブだから、明日になれば上手くいくわよ、自信持って、ふふ……うん、おやすみなさい。


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