ノコギリの歌

 

 「君もこの国で暮らすと決めたんだろ?」

 役人がそう言うので、彼女は怖いながらも頷いて、黙って彼の足元に横たわりました。すると彼の方といえば、彼女とは逆に目を光らせて、同じように光ったノコギリを、体の中なら吐き出すと、何の躊躇いも無いように、彼女の柔らかい右の足首に立て付けて、一つ呼吸をおいてから、慣れた手つきで引いてしまいます。

 

 ぎいこ、ぎいこ、ぎこぎこぎいこ

 ここに住みたきゃ、ぎこぎこぎいこ

 義務があるのさ、ぎこぎこぎいこ

 ここはいい国、ぎこぎこぎいこ

 みんな笑顔さ、ぎこぎこぎいこ

 ぎいこ、ぎいこ、ぎこぎこぎいこ

 

 役人が、そう歌うので、彼女は泣き出しそうにもなりましたが、何とか笑顔は忘れずにいられました。

 

「痛いのは、嫌なの。」

 しかし、彼女は、七回目に役人が、ここを訪れたときに、我慢しきれずそう洩らしました。

 「何を言ってるんだい?これは義務なんだから、それとも君は、この国を出て行きたいのかい?」

 「いいえ、そんなこと。」

 「じゃあ、君もこの国の発展のため、力を注いでくれないかい?今この国も不景気でね、幾ら合法的に儲けようとしても、ダメなんだな。」

 「はい、わかっています。今日も上手に引いてください。」

 「解ってるさ。」

 役人は本当にわかっているように、彼女の小さくなってしまった体の包帯を取ると、部灰色の部屋はすぐに赤く、綺麗に染まって、またあの歌と麻酔の香りで、空気はいっぱいになりました。

 

そしてそんなことはその後も定期的に何回も続き、彼女の体は包帯と配線だらけ、最後に彼女が役人に会ったとき、その包帯の中に何か忘れてきたことに気付いた彼女は、四肢を既に失った自分の代わりにそれを取って欲しいと、彼にねだってみましたが、彼は「君の義務が終わったら。」とだけ言って、彼女の首にのこぎりの歯をあてがったので、彼女は初めて本当の痛みを知って、それを彼の耳に届けようとしました、その前に喉はバックリと切られ、結局その部屋に響いたものは、ノコギリ歌、ただそれだけでした。




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