『新しいメイド教科書』(生物編)

 

例えばの問題だ、メイドさんがどうやって増えてゆくのか、私は昔から疑問に思っていたのだが、確かに生まれてからの教育というものが大きな影響を持っている事は事実であろう。しかしながら現在メイドさんというものが全滅し、一人も居ないという状態も含めて考えると其れは間違っているとしか言いようが無い。

 なぜならば、教育によってメイドさんが生まれるのであれば、生まれはどうであれ、適切な教育さえ受ければ、どんな少女であってもメイドさんに成れるはずだというのに、今現在メイドさんが絶滅したままで、しかも、その間何人もの人間が、メイドを欲しメイドを生み出そうとしたにもかかわらず、100年以上も新たに生まれていないところを見ると、ただ単にメイドさんが教育によってのみ生まれたとは考えづらい。

それでは一体何がメイドさんをメイドさんたらしめているかと考えると、やはり一番合理的に考えるのであれば、やはりメイドさんにはある種の属性主義的な性質……すなわちメイドさんは遺伝すると考えるのが妥当ではないだろうか?

そこで、この命題を軸にして考えてみるに、メイドさんは女子しか現れない形質という観点からメイドさんがメイドさんたらしめられている遺伝子は、性別を決める遺伝子であるXY染色体に深く関わりがあると考察できる。

まず、上の図を見てみよう、私が考えるに女子をメイドさんにする遺伝子は、先ほど述べたように女子ににしか、メイドさんという形質が現れない以上、メイドさん遺伝子(仮に図中ではmと表記している)は女性には無いY染色体に付随してくるものとは考えずらいので、メイドさん遺伝子はX染色体に付随しているものと考えられる。

それでは、どの染色体配列になれば、子供にメイドさんという形質が現れるのかと考察してゆくと、まず一つ目として、X染色体の両方にメイドさん遺伝子がついている場合その子供はメイドさんに成る。という説とX染色体に一つでもメイドさん遺伝子があると、子供にメイドさん形質が現れるが、同時にY染色体が個体の中にあると、メイド形質を抑制する効果が現れ、メイドさんの形質が現れないという二つの説が考えられる。

なるほど、これならば、どちらの説をとったとしても、男子にメイドさんが生まれないという法則が実現されているが、前者の説の場合はメイドさんの子供であって、しかも女子であった場合でも、X染色体のうち一つにしかメイド遺伝子が無い時、その子はメイドではなく普通の女子(ご主人様との間の子であれば、お嬢様になるが)として生まれる場合あるが、後者の説では、X染色体のどちらかにメイドさん遺伝子があれば、その子供(女子)はメイドさんの形質を受け継ぐ事に成ってしまう。

史実によれば、メイドさんから生まれてもメイドさんに成らなかった女性はいくらでも居たし、現在メイドさんが全滅している以上、メイドさんから女子が生まれると100パーセントメイドさんに成っていたのでは、メイドさんが全滅する過程で、かなり大規模なメイドさん虚勢作戦を実行しなければならなかったにもかかわらず、そういった作戦が史実に無い以上、メイドさん遺伝子に関する推察では、前者、つまり『X染色体の両方にメイドさん遺伝子が付随している時に限り、子供にメイドさんの形質が現れる』と考えるのが最も自然といえる。

それでは、次にこの考えを基にし、メイドさんが絶滅した理由を探ってみよう。もともと上流階級の男性はメイドと交わる事が多かったから、その息子には、母親がメイドさんである以上、メイドさん遺伝子を二つ持っている母親からは、少なくとも、息子のX染色体のほうには必ずメイドさん遺伝子が付随してくると考えられる。そしてそれを繰り替える事により、上流階級の家の男子は代々、X染色体にメイド遺伝子を持つ家系になっていくはずである。そしてそういった主人とメイドさんが交配した場合、女児を授かったとすると必ずその子には、メイド形質が現れる事に成る(下の図)。こうして、メイドさん最盛期には多くのメイドさんが産まれていったのだと考えられる。

ではなぜ、そこまで増えたメイドさんが急激な勢いで全滅に追いやられたのか。上で述べたとおり、当時の上流階級の血筋にはメイドさん遺伝子が多く含まれるようになり、メイドさんが増産されるようになったが、メイドさんの数に圧倒された上流階級のメイドさんと交配してはいけないという、新しい掟や、第一次世界大戦の勃発で、男手が減った分、メイドさんも、外に出て働かざるをおえなくなった。メイドさんは街に出てメイド遺伝子の濃くない、労働者階級の男性と主に交配するようになったので、自然にメイド遺伝子は薄められて、劣勢遺伝であるメイドさんは、序々に数を減らし、全滅にいたったというのが私の考えである。

最後に、この事から言えることはいったい何なのか?確かにメイドさんは全滅したかのように見える。しかしながら、それがイコールメイドさん遺伝子の全滅とは言えないのではないだろうか、今でもごく稀に、片方の性染色体にだけメイドさん遺伝子がついているという人々は居るのではなかろうか、そしてもし、彼らを交配させる事が出来たとしたら、四分の一の確立ではあるが、メイドさんを生み出す事が出来るはずだ。

しかしながら、大切な事は、ただ単にメイドさん形質を持った女性を生み出せばいいということではない、仮にメイドさん形質を持った女児が産まれたとしても、適切な教育が無ければ、良いメイドさんに成ることなどできやしないのである。散々申し上げているように、メイドさんは生まれもメイドさんで、育ちもメイドさんで無ければ、メイドさんには成れないのである。

そのためにもせっかく産まれたメイドの卵の為に、メイドさん養成所『アカデメイド』の創設が急務であると私は思ってやまないのである。


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