異邦の詩人
英雄
まあ、どうもいい話。
ある所に、明日起こる出来事が、全て正夢として見ることができる人が居たとしよう。
その人は当然、親が死ぬ事も、
何処かで戦争が起こることも
隣のジロ坊と、向いのユミちゃんが、結婚するという知らせがあることも
何でもみんな、朝起きれば、夕べの内に夢で見ていて知っていたから、それはそれは、その人にとっては、全く悲しい才能さ。
しかしだ、そんな能力を持っていて、一番怖いことは何だか分かるかね?
そうさ、自分が死ぬ時の事が、前もって知らされるのが一番怖いのさ。
まるで、死神からの手紙だね。
そういうことで、その人はきっと、ずっと脅えていたと思うわけだが、
遂にその日が来てしまった。
その人にとって、その日の夢は、死ぬことよりも怖かっただろうね、
きっと、昨晩、目を閉じたときが人生の終わりと同質のものだったんだろうね。
ところで、その人は、その日の夢の中で、どんな風に死んでいったか、知りたいかい?
その人にとっては最後の夢だよ。
例えば、自分の上に大きな隕石か、はたまた原子力人工衛星が落ちてきて、帰らぬ人になるとすればだよ、
その人は何をすればいい?
決まっているね、一人で舟でもこいで、
太平洋の真ん中にでも行けばいい、
そうすれば、その事故で、死ぬ人間はその人だけさ。
そう、彼は英雄だ。
ここで一つ、間違ってはいけない事は、
彼が夢の内容に逆らって、
生き延びようなんて考えてしまう事だ。
トッペリエ
トッペリエを知ってるかい?
そりゃもう、知ってるとも。
トッペリエって、いったいなんだい?
君は本当に、モノをしらないひとだねえ。
そこまで言うなら、オジサンは、トッペリエってどんなものだか説明できるかい?
ああ、できるさ、簡単さ。
じゃあ、教えてくれよ。
まあ、簡単に言ってしまえば、トッペリエってのは、我々の今生きている社会そのものさ。
そんなこと言われても、よく分からないよ。
それは、君が、子供だからさ。
じゃあ、大人になれば、トッペリエが分かるようになるのかい?
その通りさ。
でも、大昔の人達は、大人になるとトッペリエじゃなくて、ミッシホウを拝んでいたよ。
そんなことは、昔だからだ、昔の人は無知だったから、ミッシホウなんか、崇拝していたんだよ。
じゃあ、今の大人たちは、何でトッペリエなんてモノを拝んでるんだい?
そりゃ決まってるだろう、今は何よりも合理的な社会だからね、トッペリエこそ人類が全員が幸せに成れる、土台を唯一作ってくれるのさ。
そんなもんかな。
君も大人になれば、トッペリエの持つ真理が確信できるさ。
そうかな、僕には少し無理みたいだけれども、でも、きっと大人になれば、僕はこんな疑問さえ忘れられるんだろうね。
人間宣言
ニュースでは、人に関わる強姦罪より、
物に関わる強盗罪の方が
罪が軽いというのは、どういうことだと言っておりました。
でも、法律は、人が作ったものなので、
神が創った人間より、
同じく人に作られた、物の方が同じ感傷に浸れますし、
今日では結局、人間が金と法を崇拝し、
何時しか、人間が金と法の奴隷と成っているのですから、
奴隷の気持ちを酌んで下さる王が、狂っているのとするのならば、
人間の事を考えて下さる法律もまた、狂っているという訳なので、
法が人間を顧みないのは、ごく自然なことなのでございます。
殺人罪が重いのも人間の為ではなく、
物を擁護する、尊き拝物主義者の一員の欠如こそが、一番の問題なのです。
ですから、物を作らず、消費もしない不労民どもの死は、
法にとっては、人の形をした生物の生命停止以上の意味は無く、
簡潔に言ってしまうのならば、
法にとっての不労民の死は、
単なる蛋白質製饅頭の破損に過ぎないのでございます。
最後に私は法の奴隷でも、
金の奴隷でも、
ましては、物の奴隷などではありえないと、断言できる方に挙手をしていただきたいと、思うのですが、いかがでしょうか……。
ああ、そこのあなた、一人悠然と、そして誇り高く、手をお挙げになったあなたです。
あなただけには、強姦罪を起こした罪人に、
何よりも重い制裁を与える権利があるといえるでしょう。
なあに、弁護士は金の奴隷、
検事は法の奴隷、
そして裁判官は物の奴隷なのですから、誰もあなたを咎められる権利など在ろうはずがございません。
さあ、仕事はこれからですよ。
あなたは、今や英雄であり、そして、この国にあっては、何よりも憎むべき
罪人なのですから。
地位
某企業、仮にA社としておけば、善良なる社員の人権に配慮できるだろう。
時に、そのA社で横領事件が起きたとしよう。
当時、A社の課長だったB氏が、総額七千万円もの会社の金を、自分の私欲を満たそうと横領した結果、
B氏は数ヵ月後には、あえなく悪事がばれてしまい、警察官Cに捕まった。
しかしだ、警察官Cの所属する、警察署D自身、国が集めた国民の血税を七億円横領していることをみんな知っていたし、
そういう様に、公務員が国の金を使い込まないように監視すべき部署の役人Eが、国家予算を七十臆円ばかり横領していたことを、
これまた誰もが知っていることだったが、別段何らかの罰が、警察署Dや役人Eに下されることはこれといってなかったのだ。
そして、そんなニュースが流れていそうなある日。
A社の社員、係長Fの息子、G君は、
飼っていたウーパールーパーの餌代のうち、消費税にあたる七十円が足らなかったため、母親の財布から、七十円をくすねてしまった。
そしてG君はその日の夜、七十円のために、
七十分間叱られたうえ、G君が母親に、
何で警察署Dや役人Eが叱られないで、自分だけは叱られるのさと、言い返すと、
両親はそれとこれとは話が違うと言い放ち、
G君の毎週のお小遣いを七十円減らして、
その七十円は重くなった、税金の足しにしてしまった。
けれども、これは係長Fの家に限ったことではない、
この国の親達は、みんなこのような方法で税金を支払い続けた。
大人は達は誰も、役人たちを愛していた。
平等
世界中の大人が、ゲラゲラ笑って、狂ってしまえばいい。
そうすりゃ、政治家も、
社長も
ホームレスも
白人も
黒人も
黄色人種も
キリシタンも
ムスリムも
仏教徒だって
みんな関係なしに、精神病院送りになる。
これほど平等なことが他にありますか?
ないでしょ。
人は狂気の前でのみ、等しい。
でも、もし、大半の人が狂ってしまえば、
それは極普通のことになるのじゃないのだろうか。
そうなったら、狂っていない人が狂っていることになる。
少数派であるということは、そこまで罪深いことなのだ。
構成物
ゴミを捨てるためには、
ゴミに成るため生まれてきた
ゴミ袋が、必要でした。
税金を国が集めるためには、
税金を集めるという権限を獲得した、
税金から給料をもらっている、税務署員が必要でした。
白が白であるためには、
白自身が白であると確信するために、
白以外の色が必要でした。