『僕の死んだ夜』              萌兄。


 

昨日見た夢の話。

 僕はどうやら明日死ぬらしい。口の中にかなり長期間、放っておいた虫歯が原因らしいので、僕はなんだか自分の死が納得できてしまって、涙一つ零れなかった。

 その時、僕は体が重くて、パジャマも着替えず半纏なんかを纏ってみたりして、いかにも病人といった感じだったけれど、それでも死にそうなほどではないなと感じていた。でも、この熊谷の夏の空気さえ、すがすがしく思えてしまっていたから、やっぱり死ぬらしい。

 家族は何時に無く優しかった。母は僕が大人になってから始めてちゃんと僕の話を聞いてくれた。

妹は何時もの様にゆっくりと動いて、何時もは僕が買いに行くのに、その日は彼女が近くの錆びれたコンビニからアイスキャンデーを買ってきてくれた、でも僕は歯にしみるから食べられなかった。

父は明日死ぬ僕を旅行に連れて行ってくれるらしい。

そして、テレビの中の緑の髪の女の子は、僕を必死に慰めようと、その元気な髪形のように明るく演じていたけど、僕にはもう、死自体が慰めに成ってしまってるようで、そんなみんなの行動も僕の心には日曜日のように綺麗に映るだけだった。

けれども、それでも、それが僕にとっては一番嬉しい事だった。

 

旅行先では、美味しそうな料理がわんさか出された。

母は僕がもう食欲が無いことを知っていたから、僕の分の豚カツも父の皿に乗せてしまった。でも母さん、僕は死ぬ前にもう一度、少しでいいから肉が食いたかったよと心で思いながら、僕はサラダを食べようとする、しかも嬉しいことにそのサラダには焼肉が乗っているじゃないか、なんとも美味しそうだ。焼肉が乗っているのなら、ニンニクの効いたドレッシングがいい。

そしてドレッシングを取ってこようとした時に、テレビの中と、こっちの世界は同化して、敵のドラゴンが僕のサラダを食べてしまう。

その後、間髪入れずに、さっき僕を慰めようとしてくれた少女とその仲間達が、どこから連れてきたのか、自分の所有モンスターに命令してドラゴンと戦い始めた。

 僕は「ああ、やっぱり明日死ぬんだな。」と思いつつその戦いをぼんやりと眺めながら、僕の死因になるはずの虫歯をベロで起用になぞってみようとすると、最初、すぐには疲れた舌じゃ見つからなくて、ちょっとの間、治ったのかな思ったけれどすぐに親切な舌先は欠けた歯の輪郭を僕に教えたくれた。

 その後は、結局、明日死ぬ僕と、ドラゴンと戦って傷ついた仲間達のモンスター達を癒すため、何でも治してくれるといわれる、遠くの山の仙人の所にまで行くことになった。

でも僕は、僕自身を治してもらうつもりはもう無かったんだと思う。

 そしてもうすぐ死ぬ僕と彼等の旅が始まった。

僕はもう死ぬことさえ忘れていた。

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